人里離れた草原にも訪れる、風和やかな、頃日の刻。 今回は、早春模様の山中から、ご案内いたします。
この写真は、静岡県静岡市葵区、山伏付近の開けた笹原から、富士山方面を撮影したものです。 「山伏」は、一般的には、山に籠もって修行する、修験者のような方を意味する名詞で、 「山伏付近」と言われても、初めて聞くと「?」が浮かんできてしまいそうですが、 実は「やんぶし」と読む、山固有の名前です。 この「山伏」は、安倍川の源流域、いわゆる安倍奥の山々から白根南嶺へと続く稜線上にあり、 標高は2013.7m。山梨県と静岡県の県境にあたり、日本300名山の一座となっています。
山伏山頂へのルートは、オーソドックスには、安倍川側から大谷崩までを巡る周遊ルートが、
一日の登山行程としては充実感がありそうですが、
山頂から南下する稜線にやや沿う形で林道が延びており、
これを利用すれば、徒歩の行程をかなり短縮することができます。
しかし、主要な都市地域からは相当に離れており、仮に自家用車を使ったとしても、
長大なアプローチに覚悟が必要です。
地図上で計測すると、最寄りの都市といえる静岡市の静岡駅から、
駐車場・登山口のある百畳平までは、直線距離で約37km程。
しかし、基本的に山道がほとんどであり、
実際の走行距離としてはさらに長くなります。
時間的にも、2時間以上は見た方がよいかもしれません。
その2時間も、街中を走るのとは違い、どこまでも深まっていく山道を、
奥へ奥へと車で2時間、ひたすら分け入っていくというのは、それなりに度胸がいるような気もします。
それでも、山域としては、南アルプスの入り口のようなものですから、
南アルプスの奥深さを、改めて実感します。
なお、最も頂上に近いところを通る林道(井川雨畑線)は、確認した限り通行止めになっている等、
林道の通行は災害や季節の影響を受けるため、計画通り通行可能かどうかは、
事前によく確かめた方が無難だと思われます。
さて、登山口のある百畳平から山頂までは、歩程としては1時間も掛からずに到着することができます。 山頂からは、大井川を挟んで西側に、南アルプス南部の秀峰を眺めることができますが、 山頂の少し下に広がる笹原からは、東側に視界が開け、美しい富士山を眺めることができました。 訪れたこの日は、実際には5月で、麓では春爛漫が麗しい季節でしたが、山上の春はこれからで、 早春らしい色彩の風景が広がっていました。 帰りの車中、とっぷりと暮れた夜の林道には、野生動物たちの声が鋭く響き、 実際、道を横切る何種類もの動物たちに出逢いました(幸い、熊に遭うことはありませんでした)。 里山や、街に近い山々とは確かに異なる、深く、濃く、そして厳かな、自然の気配がありました。
頂いたご感想などにつきまして、個別のフィードバックは基本的に行いませんが、 今後の製作の糧に、また今後の写真選択の参考にさせていただきたいと思います。